発達障害の人に恋をして、悩んだ。今なら当時の自分にどんな言葉をかけるだろう?

人と人は、本当に分かり合えるのか。誰かと分かり合うために人は変われるのだろうか?

 2023年5月に公開された、発達障害の男性に恋をした女性を描いた映画「はざまに生きる、春」をご紹介します。

 近年、増加していると言われている「大人になるまで発達障害であることを周囲に気づかれずにきた発達障害の人」を「大人の発達障害」と呼んでいますが、彼らは、子供の頃に発覚する「典型的な発達障害」の人たちよりも、障害の程度が軽いのが特徴です。

あの時、私が切望していたものは何だったのか?

 しかし、障害の程度が軽いことから、これを「グレーゾーン」「はざま」と呼ぶことがあります。

 本作が初の長編作品であり、商業デビュー作品となった、監督・脚本の葛里華(かつ・りか)さんは、かつて、発達障害の人に恋をした経験があり、「人は本当にわかり合えるのか」と悩んでいた、当時の自分を「どうしたら励ませるだろう」「私が切望していたものは何だったのだろう」と、撮影中もずっと考え続けていたと話します。

<この記事に掲載されている主な内容>
・かつて発達障害の男性に恋をして悩んだ、その経験から
・人は本当に分かり合えるのだろうか
・伝わっていた、いや、まったく伝わっていなかった?
・宮沢氷魚さんなら、まっすぐに演じてくれる
・本や映画、勉強会で発達障害を学んで演技に生かす
・無力感に打ちひしがれていた私が切望していたもの

 ここでは当クリニックの五十嵐良雄医師が、日経BPのWebサイト「日経グッデイ」で連載していた記事を日経BPの許可を得て掲載しています。

好きになった人は発達障害だった。思いは伝わるのか?その先を照らしたものとは

第19回 発達障害をテーマにした映画『はざまに生きる、春』監督に聞く
2023/5/9 五十嵐良雄=精神科医・東京リワーク研究所所長

 今回は、2023年5月26日公開の映画『はざまに生きる、春』についてお伝えします。なぜこの映画の話をするかというと、実は「発達障害の男性に恋した女性の恋の物語」だからです。


発達障害の男性との恋を描く、映画『はざまに生きる、春』。主演の宮沢氷魚さん(右)と、小西桜子さん(左) ©2022『はざまに生きる、春』製作委員会

 「発達障害」は、かつては「本人が子供の頃に、周囲の大人が気づいて発覚する」ケースが多かったのですが、近年は「大人になるまで周囲に気づかれなかったほど、障害の程度が軽い」発達障害の人が増えています。

 しかし、軽いとはいえ障害由来の不得意なことがあり、社会人になるとそうした不得意なことにも仕事として取り組まねばならない場面が出てきます。そこで、うまく対応できずに体調を崩すなどして、ようやく発覚するケースが「大人の発達障害」と呼ばれているものです。障害の程度が軽く、診断に至らないほど軽い場合は「グレーゾーン」と呼ばれ、グレーゾーンのことを「はざま」ということもあります。

 発達障害は病気ではなく脳の機能の障害ですから、治ることはありません。しかし、苦手なことがある一方で、突出して得意な分野があることでも知られています。

 この映画に登場する男性は、大人になるまで周囲が気づかないほど、障害の程度は軽いわけではありませんが、「発達障害」を持つ一人です。彼は青い色の絵ばかりを描く画家として注目を集めていました。そして、彼に出会った、一人の女性が、彼の純粋でまっすぐな存在感に魅了され、やがて彼に恋心を抱くようになります。

 はたして、発達障害の彼と、彼女は心を通わせ、共に生きていくことができるのか――。

 私はこの映画に医療監修という立場で関わりました。このたび、この映画の監督・脚本を担われた葛里華(かつ・りか)さんにお話を伺う機会を得ましたので、以下、対談の内容を紹介します。

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