うつ症状の裏に別の原因が隠れているケース 双極Ⅱ型障害診断には「軽躁」の確認が必要

朝から憂鬱で倦怠感もあるのに、恋人と海外へ!?

 その後、本人は、なんとか状況を変えようと思い、単身生活をやめて実家に戻ることにしましたが、国内にいるのが嫌でたまらず、翌年9月に恋人と一緒に海外旅行へ。この行動は軽躁状態と認められます。

 旅先ではリラックスした一方で、復職のことが頭を離れず。また経済的な理由もあり、その年の11月末に帰国しました。

 その際、久しぶりに主治医である私のもとを訪れ、診断書を要求しましたが、顔はよく日焼けをして、いかにも南の島でバカンスをエンジョイしてきた若者と映り、休職中の人の行動とは到底思えませんでした。

 この患者さんは本当にうつ病なのか。

 「うつ症状」から、かけ離れた状態の本人を見て、私は「双極Ⅱ型障害=長いうつの間に、気分が高揚する『ごく短い躁状態』がある疾患」の可能性があると考えました。

 翌年1月頃には、憂鬱な気分はだいぶ軽くなり、午前中は多少憂鬱でも、午後には気分が楽になり、夜になると恋人と外食に出かけられるようになります。

 さらに3月になると朝5時頃に目覚め、それ以上寝ていられずに起きてしまい、朝から気分が爽快で頭の回転も速くなってきました。

 それまで恋人任せであった旅行の計画を自分で立て、同期や旧来の友人と頻繁に会うなど活動的になってきた。また、バイクの免許の取得にも挑戦しました。この一連の行動も軽躁状態のもとで起こされた行動と言えます。

 当院初診時から来院は不規則であり、ひどい時には(休職を続けるために勤務先に提出が必要な)3カ月ごとの診断書が発行されると、それ以降はまったく受診せず。診断書の有効期限が切れる段になって、来院するということがこの頃まで続き、5月に来院した時に、この間の経過を聞き、軽躁状態であることが認められたので、炭酸リチウム(気分安定薬)を加えて抗うつ薬を漸減する(少しずつ減らす)ように処方を変更しました(下記参照)。

「うつ病」と「双極Ⅱ型障害」では治療方法が全く違います。

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 うつ病では、うつの症状を改善させるために「抗うつ薬」を用いますが、双極Ⅱ型障害では、躁とうつの波をコントロールする治療が必要となり、その時には「抗うつ薬」ではなく「気分安定薬」を用います。

 つまり、正しい診断ができていなければ、当然、正しい薬は処方されておらず、治療が適切に行われていないことになります。

 さらに厄介なことには、双極性障害の患者さんが抗うつ薬を服薬していると、気分の波が大きくなることも多く、最悪の場合、症状を悪化させてしまうこともあります。

 その後、Aさんは復職支援プログラムを実施するデイケアでのリハビリテーションに参加。心理教育では双極性障害に関しての自己学習を勧め、自分の気分の安定度をグラフ化させるなどの工夫を行いました。

 また、デイケアに通う双極性障害の仲間との相互の交流を通じ、自分の病状をモニターし、症状再燃をコントロールしていくセルフケアの重要性を学ぶ機会となりました。

 その年の12月には勤務先の会社が定めるリハビリ出勤を経て、翌年2月に正式復職しました。その後は夜間診療で経過を追跡しているが、今のところ安定した病状で経過しています。

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 今回は入社8年目の大手広告代理店に勤務する男性の症例です。学歴、能力ともレベルは高く、比較的順調に業務を続けていましたが、自分を抑え「周囲に迎合する」気質があると本人が述べるように、仕事上では客の要望に合わせるため多忙な日々が続いていました。

 その後、2回休職し2年を超える休職期間がありますが、そのうち治療に専念したのは復職半年前から。そのきっかけは軽躁状態を呈して双極Ⅱ型障害の診断がつき処方を変更して安定した病状が得られたことによります。

 それ以外の期間は引きこもり状態が長期間続き、休職がダラダラと続いておりました。また、時には恋人とともに海外へ逃亡しよく日焼けした姿を見せ、休職期間を楽しんでいると主治医には映りましたが、炭酸リチウム(躁状態を改善する気分安定薬)によく反応し、その後の経過は良好です。

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