患者さん本人の気付きがきっかけで、診断が双極性障害(双極Ⅱ型障害)に変わったケース

 今回は「自分の体調の変化から、台風の到来を予知できる患者さん」が、患者さんにしか分からない体調変化から、治療方法を変えたケースです。

まだ台風が遠く離れている段階から台風到来を予知

 皆さんの中にも「台風が近づいてくると体調に影響がある」という経験をお持ちの方は、たくさんいらっしゃると思います。台風は低気圧の渦ですから、近づいてくれば、気圧が変化して体調にも影響が表れます。

 しかし、今回、ご紹介する患者さんの例は、まだ台風が遠く日本列島から離れていて、気象庁が台風発生を発表する以前に、自分の体調に変化があり、台風の到来を予知できていたという例です。

 そうした経験から、彼は「気圧の変化が自分の症状にどう影響しているか」を記録してグラフ化し、自分の症状の変化を記録に残すようになりました。そして、そのグラフから、本人にしか気づけない「気分の波」があることが分かったのです。

 これが疾患の診断材料になって、薬の処方が変わりました。彼の場合は、自分の身体の変化を、記録に残してグラフ化したことで、正しい診断につなげることができたのでした。

 診察室での短い時間では医者が知り得ない、患者さんだけが知る「体調の変化や、その特徴」などは記録を取るなどして、主治医に相談することで診断と治療が変わる可能性もあるという事例です。

<この記事に掲載されている主な内容>
・気分が高揚する軽躁が現れ、双極Ⅱ型障害が発覚
・気象庁発表よりも前に体調変化から台風発生を予測
・気候条件と自分のその日の気分の関係をグラフ化したら…
・本人にしか分からない、山・谷を繰り返す小さな気分の波
・小さな波の存在に気づけなければ、誤診される可能性も

 ここでは当クリニックの五十嵐良雄医師が、日経BPのWebサイト「日経グッデイ」で連載していた記事を日経BPの許可を得て掲載しています。

台風の到来を体調で予知できる患者! 主治医の診断は…

第21回 自分の疾患の傾向や特徴を捉え、観察して向き合った患者の例
2023/9/27 五十嵐良雄=精神科医・東京リワーク研究所所長

 厚生労働省の調査によると、うつ病などの気分障害の患者数は2020年に全国で120万人と報告されており、ビジネスパーソンにとっても大きな健康問題になっている。ただ、ひと口に「うつ」と言っても、うつの症状が現れる疾患はうつ病に限らず、たくさんある。特に「双極Ⅱ型障害」や「大人の発達障害」などによってうつの症状が現れ、うつ病と診断されてしまうケースも増えているという。では、そんな状況で精神科医はどのように対処しているのだろうか。精神科医の五十嵐良雄氏がどんな視点で患者さんの病状や体調を診て、診断し治療を行っているか、患者さんのタイプ別に紹介していく。

 前回より、私がこれまでに数多くの患者さんを診てきた経験から、クリニックの診察室で患者さんを診察する際に

 ・どのような視点で、患者さんの病状や体調から原因疾患を診断しているか
 ・その診断を経て、どういう治療を行っているか

 という精神科医の診断術と治療について、お伝えしています。

 通常、クリニックの診察室では「医者が患者さんの、どこを、どう診て、疾患を診断しているのか」について、患者さんは、具体的には分からない場合も多いと思います。もちろん、診察の現場で患者さんが話される、ご自身の疾患の経緯やその様子、経過などのほか、患者さんの様子(=顔色、目の動き・輝き、肌の状態、話しぶりは要領を得ているか、落ち着いて話せているか、身体の揺れや発汗の有無はあるかなど…)から、さまざまなことを読み取って、診断につなげることもあります。

 ここでは医者である私が患者さんをどのように診て、疾患を診断しているかについて、お伝えしていきます。いわば「患者さんのタイプ別ケーススタディ」と考えていただければと思います。

自身の体調の変化から、台風到来を予知できる患者

 それでは、今回の患者さんのケースをお伝えしていきます。

症例 2
体調の変化から「台風の接近」を予知する患者さん
その日の気分を観察・記録して原因を追究する理詰めタイプ

Aさん:男性、年齢55歳、会社員。2010年3月初診。40歳の時に職場の業務多忙と、家庭内での妻と実母との不仲が続いたことからストレスがたまり、おっくう感や寝つきの悪さ、中途覚醒などの睡眠障害といった、うつの症状を発症。

※こちらの例では、実際の患者さんの情報を特定できないように一部加工しています。

 今回、お伝えするのは「自分の体調の変化で、台風の接近を予知できる」という患者さんのケースです。「体調の変化」と「台風の接近」とは、一見、まったく何の関係もないように思えますが、一方で、これをお読みの皆さんの中には、すでに、この2つのキーワードだけで「ああ、なるほど」と、すでにピンときている方も、いらっしゃるかもしれません。

 例えば1日の中で「今朝は元気だったのに、なぜか、昼過ぎから調子が悪くなった」「睡眠不足でもないのに、日中、急に眠くなった」といった、さほど深刻な症状ではないとしても、急な体調の変化を感じた経験がある方は少なくないと思います。ただし、こうした場合、体調の変化には気づいても、その原因には心当たりがないというケースが多いでしょう。

プライバシーポリシー
© All Rights Reserved. メディカルケア大手町・虎ノ門