うつによる休職からの復職は うつを発症した 渦中に戻る という こと。 万全の準備が必要です。

過信は禁物、十分な対策なしに復職すれば「再休職のおそれも」

 うつ病などで会社を休職した社員の10人に4人が、休職制度を利用していたり、職場復帰後に退職しているというデータがあります。

 その要因は、まず、ひと口に「うつ」と言っても、「うつ状態」が現れる疾患にはさまざまな病態があり、病院の診察室での短い診察時間では、医師が個々の患者さんの病状を正確に診断できていない可能性があること。

 2つ目は、主治医が「復職可能」と見極める病気の回復レベルよりも、企業が求めるレベルが高く、そこには大きなギャップがあることが挙げられます。

 病院での主治医との短時間の診察だけでは、患者さんが復職後の仕事でどれほどのパフォーマンスを発揮できるかを、主治医が正しく把握することは難しく、また、復職可能な状態なのかどうか、回復の程度の判断には多くの医師が「迷うことが多い」という調査結果もあります。

うつを再発しないスキルを身に付ける

 十分に回復していない状態で復職することは、症状の悪化や、再休職に至りかねません。

 そこで、私達が実施しているのが「リワークプログラム」です。リワークはRe-Work=仕事に戻るという意味であり、そのためのプログラムです。

 そこでは、会社に通うようにクリニックに通ってもらい、職場のように、プログラムが用意した課題などに取り組んでもらいます。

 そして、休職に至った要因について、自身で分析してもらいます。同じような環境に再び置かれても、うつを再発せずに済むよう、対処できるスキルを身に付けるためのプログラムです。

 そして、ゴールは「復職」ではなく、復職後も働き続けられる「再休職の予防」であることを、しっかりと認識することが重要です。

 また、会社を休職するということは、本人にとってそれまでの働き方や考え方を振り返る貴重な機会にもなります。成長につなげる機会にしてほしいと考えています。

<この記事に掲載されている主な内容>
・メンタルヘルス不調による休職者の復職がうまくいかない現状があります
・主治医の判断レベルと企業の求めるレベルとの間でギャップが生じるのはなぜでしょうか
・早期の復職判定は、本人や企業にどのような影響を及ぼすでしょうか
・メンタルヘルス不調の再発を防ぐためにはどのような取り組みが効果的でしょうか

 ここでは当クリニックの五十嵐良雄医師が、2019年2月に「月刊Wedge」に掲載した記事を株式会社ウェッジの許可を得て掲載しています。

INTERVIEW 中途半端な復職は症状を悪化させる
目指すべきゴールは「再休職防止」

 労働政策研究・研修機構の調査結果(2012年)によれば、過去3年間にうつ病などメンタルヘルス不調で会社を休職した社員のうち、10人に4人が、休職制度の利用中や職場復帰(以下、復職)後に退職している。休職者の復職がうまくいかない要因と必要な対策について、精神科医として1500人以上の職場復帰を支援してきた、東京リワーク研究所所長の五十嵐良雄氏に聞いた。

Wedge編集部(以下、―― )メンタルヘルス不調による休職者の復職がうまくいかない現状があります。

五十嵐 要因は大きく分けて2つ考えられます。1つ目は、メンタルヘルス不肖の症状を正確に把握するのが難しいこと。例えば「うつ」について言えば、うつ病や躁うつ病、そして典型的な症状が表れにくく周囲から病気と見なされにくい非定型うつ病など、様々な種類があります。症状を把握して正確な診断ができなければ有効な対策が打てませんが、短い診療時間内にこれを行うのは難しいことです。

 2つ目は、主治医が復職可能の診断書を発行するレベルよりも、企業が求める回復レベルの方が高く、ギャップが生じていること。そのため、いざ復職しても会社から求められるパフォーマンスを発揮できず、プレッシャーがかかると心身のストレスが増加し、再びメンタルヘルス不調に陥ってしまいます。そして、昨今の厳しいビジネス環境も影響し、多くの企業では復職者に求める回復状態のレベルが年々高くなっています。

――主治医の判断レベルと企業の求めるレベルとの間でギャップが生じるのはなぜでしょうか。

五十嵐 詳細な症状や、休職期間終了時にどれだけ職場でパフォーマンスを発揮できるのかについて、主治医との短時間の診察や産業医の面談だけで把握するのは非常に難しい。休職者の中には、企業から退職を迫られることを恐れ、精神科医に復職可能と判定してもらうために自身の回復状態を偽る人もいます。

 全国の精神科クリニックと病院の精神科医、計2500人に実施した「うつによる休職者の復職時や復職後に困ること」を聞いたアンケートでも、半数以上が「復職可能な状態かどうかの判断が難しく、迷うことが多い」と回答しています。

――早期の復職判定は、本人や企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

五十嵐 うつは慢性化しやすいため、完全に回復していない状態で復職すると症状が悪化し、再び休職に追い込まれるという悪循環に陥り、本人にとっては休職期間満了による退職のリスクが高まります。

 企業にとっては、そうした早期の復職は期待したパフォーマンスが得られないため業務が滞ることになります。そして、休職と復職を繰り返すようになれば、その都度、配置部署や業務配分の変更等が発生し、対応に追われる関係者への負荷も増加していきます。その結果、企業にとっては大きな経済的負担となってきます。

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