主治医は診察室で、患者さんのどこを診て病状や体調を診断して治療しているのだろう?

不安・抑うつ、早朝覚醒、不眠、おっくう感、集中力の欠如…

 「おっくう感が朝から強く、昼頃まで布団の中にいるが、午後になると多少良くなってきて、夜が一番調子は良い。そのため漫画を描くのは夕方から夜にかけてとなるが、以前のように集中して描けず、なかなか進まないので締め切りにも間に合わない」と、うつむきながらトツトツと話します。

 「うつ」を発症する以前の生活について尋ねると、「10時頃起床し、朝食ののち作業を開始し、ほぼ一日中、室内で過ごす生活を続けていた。土日は買い物に出たり、自分の部屋の掃除や洗濯をしたりする時間もあった。調子が上がってくると、徹夜で漫画を描き続けていることもあった」ということでした。

 このような生活が数年続いている中では「漫画のアイデアが湧く時期」と、「なかなかストーリーが出てこない時期」があったと言います。ただ、今回のように集中力が極端に途切れ、漫画が描けないといった時期は、これまではなかったとのこと。

 本人によると、今回の「気分が憂鬱で、集中力がなく、作品のアイデアが湧いてこない状態」の原因や誘因として特に思い当たるものは何もないと言います。

 憂鬱な気分、集中力の欠如、おっくう感などの症状が続いていることから、「うつ状態」であると判断して、「アモキサピン(*1)」という薬を50mg処方し、2週間後に再診としました。

芸術家タイプには集団で行うプログラムは向いていない

 実は、彼が来院した当初の目的は、当クリニックで現在も行っている復職支援の「リワークプログラム」(*2)の利用でした。

 ご本人はリワークプログラムで他人との交流を図ることによって、病状が回復するのではないかと考え、当院を受診されたようでした。しかし、リワークプログラムは集団での力を利用して、休職中の方を職場に戻すリハビリテーションです。

 Aさんは漫画家です。漫画という作品を創り出す上で、頭の中で漫画のストーリーを組み立て、それを漫画に仕立てていく作業をしていきます。あくまでも一人の作業であって、自分以外の人との共同作業ではありません。

 ですので、集団で行うリワークプログラムはAさんには向かないだろうと考えました。一つの分野に秀でた芸術家タイプの方への利用はお勧めしません。集団の中での回復を目指しているからです。

  *1 アモキサピンは憂鬱な気分を和らげ、意欲を高める効果がある抗うつ薬。古いタイプの抗うつ薬で、現在は製造されていない(この事例は少し前のもの)。

*2 「うつ」で休職中の会社員の患者さんに、クリニックに一定の期間、通勤のように通ってもらって、職場のように何らかの作業をしてもらい、復職後の勤務の日々に似た環境の中で少しずつ慣れてもらう復職支援のプログラム。「リワーク=Re Work」(仕事・職場に戻る)という意味。

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