幼少期からの発達障害に双極Ⅱ型障害が合併するケース増加中。対処の鍵とは?

この患者さんをどう診断したか

 こうした経緯から当クリニックを受診。まずは、発達障害であるかどうか、検査を行ったところ、成人のADHD(注意欠如・多動性障害)をチェックする検査(ASRS)では6項目中、すべてに当てはまり、精神疾患の国際的な診断基準(DSM5)でもADHDの「不注意と多動が混合する型」に相当したため、ADHDと診断し、ASD傾向があると診断した。

発達障害を診断する検査は

実は「大人の発達障害である」と診断することは、簡単ではありません。当クリニックではまず、患者さんから、どういう症状があるかを聞き取り、その後、「大人の発達障害外来」では3日間かけて検査を行います。

検査については以前掲載した、こちらの記事をご参照ください。

●「大人の発達障害」を正しく診断するのは実は大変難しい

 ここからは「この患者さんを私がどう診断したか」についてお話しします。まず、これまでの症状を聞き取っていく中で、最も気になったのが以下の点です。

  • ここ数年は思考が止まり、他人の話が頭に入ってこないことが多い。活動できている状態もあるが、気分が落ちている時は、体が鉛のように重く感じられ、何もできない状態となる。
  • その一方で、そうした時期が1、2週間続くと、今度は一転して元気な時期が来て、気分が爽快になり、衝動買いもする。おしゃべりになり、周囲からも「元気すぎる」と指摘されることがある。この活動的な状態は数日から1カ月くらい続くが、こうした気分の波は1日の中で上下することもある。

 この「何もできない時期がある一方で、一転して元気な時期が来る」という発言から、私が、まず疑ったのは「双極Ⅱ型障害」です。この障害については「台風の到来を体調で予知できる患者! 主治医の診断は…」でも取り上げましたが、どういうものなのか以下に再掲します。

双極性障害とは

 気分が高揚して活動が活発になる「躁状態」(そうじょうたい=気分が高揚する状態)と、気分が落ち込む「うつ状態」が交互に現れる病気です。

 Ⅰ型とⅡ型があり、Ⅰ型は躁状態の時の程度が著しく激しく明らかに行き過ぎた行動が現れるため、すぐに周囲も気づきます。一方のⅡ型は、躁状態が数日程度とごく短期間しかなく、本人でさえ「いつもよりちょっと気分がいい」程度にしか感じないほど軽いため、本人も周囲も、病気であると気づくことが難しいのが特徴です。

 しかし、この、わずか数日程度という、ごく短期間の躁状態の時期があることに気づかない限り、双極Ⅱ型障害であると診断できず、正しい薬の処方もされません。

 この双極Ⅱ型障害は、5年間で9割が再発するというデータもあるほど、再発率が高い病気でもあります。

 前回の「台風の到来を体調で予知できる患者! 主治医の診断は…」という記事で紹介した事例では「うつ状態」である患者さんが、実は「双極Ⅱ型障害」であると分かって、症状の悪化は「気象の変動」に関係していたというものでした。

 今回のケースでは、時折現れる「軽躁(けいそう)状態=ごく軽い躁(そう)状態」について、当初は、発達障害のADHDの症状の「落ち着きのなさ」の表れであろうと考えていましたが、双極Ⅱ型障害の軽躁ととらえて、気分安定薬を投与して治療したところ、症状の改善が見られました。

 このことから、この患者さんの軽躁状態は、「ADHDの落ち着きのなさ」ではなく、双極Ⅱ型の症状であったと確定でき、誤った診断による、誤った薬の処方を回避できた、という事例です。

 ※躁(そう)状態とは:気分が高揚して、テンションが高くなっている状態を言います。双極Ⅰ型障害の場合は、大声で話す、お金遣いが荒くなる、ケンカっぱやくなる、といった日常から逸脱した行動が見受けられますが、双極Ⅱ型障害の軽躁の場合は、ごく短い期間だけ現れ、いつもよりちょっと気分が良い程度にしか感じないケースが多いのが特徴です。しかし、患者さんに、この軽躁状態があることを確認しなければ、「双極Ⅱ型障害である」と診断することはできません。

 発達障害のADHDと双極Ⅱ型障害が併存するというケースは、冒頭でもお話ししたように大変増えています。にもかかわらず、この2つが併存している可能性があることに気づけなければ、いつまでも正しい薬が処方されないままとなります。

 当然、正しい薬が処方されていなければ、症状が良くなることはありません。服薬を続けているのに、一向に効果が無い場合は、双極Ⅱ型障害が併存しているのかも?と、疑ってみることも必要です。

(まとめ:福井弘枝=編集・ライター)

出典:「日経Gooday」2023年10月30日掲載
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/20/111600039/102000029/
日経BPの了承を得て掲載しています

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