多くの医療現場で実績あり、ストレス対策に効く認知行動療法とは?

物事のとらえ方(認知)と行動を見直して柔軟性を高める

 「認知再構成法」について、先に挙げたケースにあてはめて考えてみましょう。

 既に起きてしまった事実=状況や、その時に感じた気分・感情、実際に表れた身体的な反応は、発生済みのことですから、後から変更したり、コントロールしたりすることはできません。

 でも、「認知」と「行動」はどうでしょう?

 実際には「こう考えた」「こう行動した」という過去の事実を変えることは、もちろん、できませんが、「あのとき、別の考え方をしていたらどうなっていただろう?違う行動をしていたら?」と、後から、意図的に過去の自分の「考え方」と「行動」を思い直して、その結果を想像することはできます。

 これによって、例えば「ああそうか、あのときは、ああいう風に考えたから、ああいう行動したけれども、実は、こう考えることも、こう行動することもできたのだな」と、自分の物事のとらえ方の柔軟性を高めていくこれが認知再構成法です。

 自分を振り返り、「思い返し」をすることで、別の考え方、別の行動の選択肢があったことに気づけば、そういう選択をしなかったからこそ、現実の状況があるのだと納得がいく。そうした経験を次の選択に生かすこともできます。

まだあるアプローチ、マインドフルネスとスキーマ療法

 ここまでお伝えしてきましたが、実は、認知行動療法は現在進行形で進化・発展を続けており、多種多様な技法を含むものになってきています。新たなアプローチとして、伊藤絵美先生が特に注目しているのが「マインドフルネス」と「スキーマ療法」です。

 マインドフルネスとは「いま、この瞬間の自分自身の体験にしっかりと触れられるようになるための技術」であり、スキーマ療法とは「自分の生きづらさの根っこを知り、その根っこによる影響を日々の生活の中で実感しつつ、それを乗り越えていくための技術」だと言えます。

 次回、この連載では私と伊藤絵美先生との対談の模様をお伝えしますが、そこで、これらについても触れたいと思っています。

今回ご協力を頂いたのは…

伊藤絵美(いとう えみ)さん
セラピスト(公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士)、洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長、千葉大学子どものこころの発達教育研究センター特任教授

慶応義塾大学文学部人間関係学科心理学専攻卒業、同大学大学院社会学研究科博士課程修了、博士(社会学)。

2004年より、認知行動療法に基づくカウンセリングを提供する専門機関「洗足ストレスコーピング・サポートオフィス」を開設、所長を務める。主な著書に「セルフケアの道具箱―ストレスと上手につきあう100のワーク」(晶文社)、「コーピングのやさしい教科書」(金剛出版)、「世界一隅々まで書いた認知行動療法・認知再構成法の本」(遠見書房)など多数がある。

(まとめ:福井 弘枝=フリーライター)

出典:「日経Gooday」2022年5月27日掲載
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/20/111600039/052000014/
日経BPの了承を得て掲載しています

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