「なおりはしないが、ましになる」、カレー沢薫さんと発達障害について語る

Dr.五十嵐 コムズに参加して特に驚いたことや、新しい発見があったというような具体的なエピソードはありますか?

発達障害も「悪くもなかったんじゃないか」と思えるようになった

カレー沢さん 通院し始めたときは結構、悲観的な気持ちだったんですけれども、私がマンガ家や作家の仕事をしているという話をすると、ほかの参加者さんたちに「逆に、発達障害だからそういう仕事ができているのじゃないですか」みたいなことを、言われることが結構多かったんです。

 「逆に発達障害で良かった…良かったというところまではいかなくても、悪くもなかったんじゃないかな」という気持ちになれました。発達障害であることを肯定できるような…。

Dr.五十嵐 そうそう、発達障害の人には苦手なことがある一方で、得意なことも突出してある場合が多いのです。私も同じようなことを伝えましたよね。

カレー沢さん そうですね。

自己肯定感が出てきたのは大事なことだった

Dr.五十嵐 自己肯定感が出てきたということですね。それはコムズに出たからというだけじゃなくて、診察や診断などを通じてもそういうものが出てきた、それは自分にとって大事なことだったということでしょうか。

カレー沢さん はい。そうです。

Dr.五十嵐 コムズには何回くらい参加されたんでしたか?

カレー沢さん 1年間とまではいかないですけれど、5、6回は出たと思います。

Dr.五十嵐 わざわざ、飛行機に乗ってね。

カレー沢さん はい。

Dr.五十嵐 コムズの中で、同じ発達障害の参加者同士で、個人的に仲良くなるというようなことはありましたか。

カレー沢さん 特にはありませんでした。私としてはその方がラクで。他の人は違っていたのかもしれないんですが。コムズ以外でもつながろうという感じがなかったのがラクでした。

Dr.五十嵐 あの場でおしまい、というのが良いと。

カレー沢さん はい。やっぱりちょっとサークルの中に入ると、結構はみだしてしまう経験が多かったので、発達障害の人たちばかりのコムズでも、そういう状態になってしまったら、本当につらい感じになってしまうので。その場でだけ話し合うという関係だったからこそ、何回も通うことができたと思います。

 逆にみんなが仲良くなる場だったら、何回も参加できなかったような気がします。

当事者同士だから開放感があり、共感に嘘がない

 それに、「私は発達障害です」と言うことで相手に戸惑われるのがイヤという気持ちがすごくあるんですが、コムズでは「発達障害です」と言って戸惑う人は誰もいません。全員が発達障害ですから。いつも気にしていることを気にせずに話せるということに、解放感がありました。

 加えて、自分が当事者だから「共感できる」というのも、嘘ではないんですね。発達障害ではない人に、発達障害の話をして「ああ、その気持ち、わかります」と言われても、「いやいや、発達障害ではないあなたに、わかるはずないでしょう」と思ってしまう。でも、コムズではそこにいる人たちの共感に嘘がない。

Dr.五十嵐 なるほど、そうですね。

 マンスリーコムズでは発達障害の人同士がコミュニケーションを取り合うことができますが、世の中には「困りごと」を抱えながら、まだ診断もされていない、発達障害かもしれないと気づいてさえいない人たちが実はとても多いのではないかと思っています。そういう方たちに、カレー沢さんなら、どんな言葉をかけますか?

検査を受けたことで私は変わることができた

カレー沢さん そうですね…。違和感を持っている人はたくさんいらっしゃると思うんですけれども、やっぱり「検査を受ける」という段階までいくのはちょっとハードルが高いと思っているのではないでしょうか。

 私自身も長い間、自分でもおかしいなと思いながら、病院には行けなかったので。たぶん、「検査してもしょうがない」と思っている人もいると思います。

 でも、検査をすることで、私はこれだけ変わったので。私が変わったということを示すことで、行ってみようと思う人が少し増えればいいなと思っています。

Dr.五十嵐 それは意味のあるメッセージですね。検査して診断を受ける以前、「ちょっと変だな」と感じる「違和感のようなもの」とは、具体的にはどういうことでしたか?

カレー沢さん やっぱり、昔からコミュニティの中に入れないというか。「ちょっとズレている人」という扱いだったように思います。

社会に出たら問題を起こすことが増えた

 学生時代はそれでも、どうにかなったのですが、やっぱり社会に出ると、周りの人達とのコミュニケーションは不可欠で、それができないと仕事がうまくいかないんですね。

 「問題を起こす、迷惑をかける」ことがすごく増えてしまって。そうして、迷惑をかけるとやはり、自己嫌悪というか、すごく落ち込んでしまう。それで結局、仕事も辞めたんですけれども。

Dr.五十嵐 さかのぼると小さい頃からコミュニケーションがうまくいかないな、と感じていたのですね。しかし、なぜうまくいかないかというのは、わからなかったんですね。

カレー沢さん そうですね、やっぱり…検査して、発達障害のことを調べて。改めてわかったというか。マンガに描くにあたっては客観的に見なければいけないというのもありました。

患者さんはよく「腑(ふ)に落ちた」と言う

 でも、実は「自分はそんなに問題になるほどではない」と思っていたんです。「ただちょっと人見知りだから」みたいな感じで。ところが、客観的に見てみると、確かに「自分がこう言ったら相手の人はこう思うだろう」みたいなことを、これまで、あまり考えずに来たなということがわかってきて。腑(ふ)に落ちました。

Dr.五十嵐 患者さんはよく「腑に落ちた」と言います。検査が終わって「ああ、なるほど」と感じるのですね。それが非常に大事なんですね。

 いま、この記事を読んでいる人たちの中にも、「もしかしたら、私は発達障害なのかも?」と、困りごとを抱えている人たちはいるでしょう。そういう人たちが自分を客観視する材料というか、機会があるといいと思うんですね。それは、発達障害と診断するための検査を受けることであったり。

 自分で「何かうまくいかない」「どうしてなんだろう?」と思いつつも、一歩を踏み出せずにいるような人たちの中からも、検査を受ける人たちが増えるといいなと思っています。でも実は、いま現在、発達障害かどうかという診断するための検査を受けられる機関はあまりないんですよね。

カレー沢さん そうなんです。それが大きな問題なんですよ。私がずっと検査を受けなかったのも、どこで検査できるのか、全然情報がないというところで、まずつまずいていたというのがあるので。地域によって格差が大きいといいますか。


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