漫画家・カレー沢薫さんにお尋ねします、「発達障害の診断」をどう受け止めましたか?

成人になってから発覚する「大人の発達障害」

 近年「大人の発達障害」と呼ばれる、成人になってから発覚する発達障害が増えています。

 比較的典型的な発達障害は、幼少期に周囲の大人が気づいてわかるものですが、「大人の発達障害」と呼ばれているのは、その障害の程度がごく軽く目立たないために、幼少期には周囲に気づかれず、苦手なことや不得意なことがあっても、自分なりの工夫によって何とか対応してきたか、あるいは、そのまま耐えてきたというケースです。

 しかし、いずれの場合でも、大半の「困りごと」はそのままで、ご本人や周囲の方が困ることになっているのです。しかも、社会に出て働くようになると、仕事では苦手なことにも取り組まなくてはなりません。そこで強いストレスを感じて、うつの症状が表れるなどにより、ようやく障害が発覚することも多く、うつなどをきっかけに受診する場合もあります。

 実は、そうした方々の発達障害を正しく診断するのは簡単なことではありません。なぜなら、「大人の発達障害」の場合、その程度が、子供の頃に発覚する発達障害ほど典型的ではないからです。

 「うっすらと、その傾向がある」、「診断基準を満たさないグレーゾーン」といった確定診断に至らないケースが多く、また、複数の発達障害の要素が混在していることも多く、典型的なケースより診断ははるかに難しいのです。

 そのため、正しい診断には、子供の頃から現在に至るまでの困りごとについての聞き取りや、知能検査、記憶検査など複数の心理検査が必要で、相応の時間と費用がかかります。

 カレー沢さんはこの検査に臨まれ、その結果、

●落ち着きと集中力がなく、仕事が進まない。片づけができない
→ ADHD(注意欠如・多動性障害):不注意、多動性、衝動性が見られ、落ち着きがなく失くし物などが多い

●人とうまくコミュニケーションが取れず、孤立しがち
→ ASD(自閉症スペクトラム障害):コミュニケーションの取り方、社会性や想像力に偏りがある。空気を読むのが苦手

 という2つに当てはまり、発達障害であるという診断に至りました。

 その後は月に1回の通院やメディカルケア虎ノ門での発達障害の患者さん対象の「マンスリー・コムズ」というリハビリテーションプログラムにも参加しました。

 小学館発行の『月刊!スピリッツ』に、「不調から、クリニック受診、そして検査を受けて発達障害の診断に至り、リハビリプログラムに通う」という一連の経過を「なおりはしないが、ましになる」という漫画作品に描きつづっています。

頭の中が騒がしい、脳に落ち着きがない


©カレー沢薫/小学館

 このような経緯で、私はカレー沢さんと出会ったわけです。ここに漫画の一部を載せますが、「頭の中が騒がしい」「脳に落ち着きがない」といった表現です。

 ADHDの患者さんに聞くと多くの方が「この通り」だと答えます。多分、多動性と思われますが、「頭の中に何人か自分がいるようで、私の脳はとにかく落ち着きがない」という表現はわかりやすいものです。こうした表現は悩んでいるご本人にしかできないことで、発達障害の方が抱える「困りごと」について、どんな専門の医学書の説明よりも、わかりやすく、鮮明に伝わってきます。

 その「困りごと」を、発達障害の当事者であり、表現者でもあるカレー沢さんにお尋ねしていこう、語ってもらおうという企画で対談をしました。カレー沢さんの回答は、漫画での表現と相まって、同じ悩みを抱える多くの皆さんに役立つと考えるからです。多くの発達障害の方が遭遇するであろう、いくつかの困りごとについてお聞きしました。

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