漫画家・カレー沢薫さんにお尋ねします、「発達障害の診断」をどう受け止めましたか?

漫画「なおりはしないが、ましになる」、カレー沢さんに訊く

 皆さんは「発達障害」についてご存知でしょうか。発達障害は先天性、つまり生まれながらの脳の機能障害のことを言います。

 一般に、人は幼少期から年齢を重ねるにつれて、徐々に言葉や知的能力などが発達します。しかし、幼少期に年齢相応の発達がみられないケースがあります。以前は、周囲の大人が「もしかしたら、この子は発達障害なのではないか?」と気づいて、発覚することが多かったのですが、近年では、その障害の程度が、ごく軽く、目立たないために、幼少期に周囲の大人たちにも気づかれずに成長するケースが増えています。

 しかし、成長してもその障害が消えることはありません。「障害由来の苦手なことや困りごと」を抱えたまま、自分自身で対処方法を身に付け、どうにか、やり過ごしていきます。

なぜ起こる?「悩みごと」「困りごと」

 とはいえ、社会に出て働くようになると、苦手なことにも仕事として取り組まなくてはなりません。そこで、うまくできずにストレスが溜まり、うつの症状が表れて会社を休職するというケースが増えています。この場合、症状は「うつ」であっても、原因は発達障害にあります。このように大人になってから発覚する発達障害が「大人の発達障害」と呼ばれています。

 今回は、そうした障害に由来する「悩みごと」や「困りごと」について、漫画家で、発達障害のカレー沢薫さんに、どうしてそうした「悩みごと」「困りごと」が起こると思うか。「自分の困りごとをどのようにとらえて理解しているか」について、3回に分けてお聞きしていきます。

 初回の今回はカレー沢さんが、診断を受けるまで、そして診断に至って、どのようにお感じになったかについて、伺いました。

<この記事に掲載されている主な内容>
・成人になってから発覚する「大人の発達障害」
・頭の中が騒がしい、脳に落ち着きがない
・発達障害とわかり、できないことを受け入れて自己肯定感が増した
・工夫次第でできるようになるが、それをどう定着させていくか
・治らないけれど、「できないこと」は増やせる
・「大人の発達障害」の診断は実は大変難しい

 ここでは当クリニックの五十嵐良雄医師が、日経BPのWebサイト「日経グッデイ」で連載していた記事を日経BPの許可を得て掲載しています。

正しい診断を得てこそ、新しい一歩を踏み出せる

第16回 「大人の発達障害」との診断を受けて
2022/12/1 五十嵐良雄=精神科医・東京リワーク研究所所長

 漫画家でエッセイストでもあるカレー沢薫さんは、これまでに大変多くの作品を描いてこられ、2021年には「ひとりでしにたい」という作品が「第24回文化庁メディア芸術祭」のマンガ部門で優秀賞を受賞されるなど、大活躍されています。


1つのことしかできない、相手の顔を覚えられない、空気が読めないなど、長年の悩みの原因は発達障害によるものだった。2021年に続き、発達障害について笑って学ぶ漫画第2巻(右)を2022年小学館より発刊

 そんなカレー沢さんは当初、会社勤めをしながら漫画を描いていましたが、その後、会社を辞め、漫画家に専念することになりました。しかし、漫画を描く時間が増えたにもかかわらず、集中力が続かず、漫画作りが進まなかったばかりか、部屋は汚れ、人を怖いと感じるようになったと言います。

 「実は子供の頃から、自分の世界に入り込んで人の話を聞かず、落ち着きもなく、集団行動ができませんでした。会社勤めをしていた時も、仕事中に脱線したり、集中力に欠けていて、よそ見ばかりしていて、全然仕事がはかどらず、職場の周囲の人たちから嫌われていたように思います。

 会社を辞めたら、きっと楽になると思っていたのに、実際に辞めてみたら、逆に、家に独りでいると自分の異常性にばかり直面することになり、漫画も描けなくなって、とてもつらく、日々を憂いていました」とカレー沢さんは漫画に描いています。

 そんな時に、「それなら」と、出版社の担当編集者さんが病院を探し、カレー沢さんが私のクリニックの「成人の発達障害外来」を受診することになりました。

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