「なおりはしないが、ましになる」、カレー沢薫さんと発達障害について語る

Dr.五十嵐 どうして発達障害のことをマンガに描こうとお考えになったのでしょうか。ご自分の悩みとしてあったことをマンガという形で発表していくというのは、ハードルが高かったのではないかと思います。

カレー沢さん そうですね。ちょうど、出版社の担当編集さんと「新しい連載マンガを始めたいね」ということで、いろいろテーマを話していまして。

 実は私は、少し前まで会社勤めをしながらマンガを描いていたのですが、その会社を辞めたことで、自分の発達障害の問題をとても大きく感じることが増えていました。それで、そういう話をしていたのです。

 すると、担当編集さんが「ちゃんと病院で診てもらった方がいいのでは」と言ってくれて…。自分でも昔から違和感があり、発達障害なのではないか?とは思っていたのですが、病院で検査を受けようという気持ちにまでは至っていなかったんです。

 それで「もしかしたら、それが新しい連載のテーマになるのでは?」と。そう言われて「良いキッカケなのかもしれない」と思いました。

マンガにすることで自分でも整理できて発見が多かった

カレー沢さん たぶん、自分ひとりだったら、違和感を持ちながらも、このままズルズルと生きていくのだろうという気がしていました。でも、「マンガにする」という動機があれば、公私混同ではありますが、自分の発達障害と向き合うキッカケになるのではないか…。そう考えて、マンガを描こう、と。

Dr.五十嵐 昔から、違和感を持っていたことと、仕事を辞めたこと。それから現在の担当編集者さんとの出会いがあって。この3つが重なったわけですね。そして、それをプラスに転じる機会にしようと思ったわけですか。

カレー沢さん はい。

Dr.五十嵐 その「プラスに転じよう」という発想は、普通はできないのではないかと思います。でも、悩みは悩みとしてあるわけですね。

カレー沢さん はい。

Dr.五十嵐 現在も、マンガは連載中ですが、発達障害だとわかって、マンガという形で表現していって、作品がどんどん生まれるわけですよね。そうしたプロセスについては良かったなと思っているのでしょうか。その辺りはどうですか?

カレー沢さん そうですね。マンガにすることによって、自分でも整理がついていったということはあります。やはり、マンガにする上では、障害のことも「ほかの人(読者)にわかりやすいように伝えよう」と考えるので、そうするうちに、自分の中でもよくわかるようになって。「ああ、こういうことなんだな」という、発見がすごく多かったです。

Dr.五十嵐 なるほど。

病院に行ったら「違う人間になれるのでは」という期待があったが

Dr.五十嵐 私は『なおりはしないが、ましになる』というタイトルがとてもいいなと思っています。このタイトルに決めたのはどうしてですか。

カレー沢さん 実は私には「発達障害が治るのではないか」、「病院に行ったら、根本的に生まれ変われるのではないか」というような期待が、ずっとあったんです。劇的に、今までとは違う人間になれるのではないかという、希望が。

 でも、やっぱり、発達障害というものを知れば知るほど、根本的に変える、変わるということは無理というか、できないことはないのかもしれませんが、「それを目的とすると苦しい」ということがわかってきたんですね。

 だから「治すことを目標に考える」とやっぱり、逆に、すごく落ち込んでしまうので。それなら、「今までよりも、ちょっとは、ましになる」くらいの気持ちでいることが大事なんじゃないかなと。


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